スプーキーズの中の人。

スプーキーズの中の人が徒然なるままに、垂れ流します。

どうして「AutoChessライク」という新ジャンルは僕にとってこんなにも魅力的なのか

おそらくこちらのブログでははじめましてだと思います。アルバイトのkouhiraです。

冒頭からいきなりの私事で恐縮なのですが、今、自分は「Auto Chess:Origin」というスマホゲームにどっぷりとハマっています。

Auto Chess:Origin

Auto Chess:Origin

  • Dragonest
  • ゲーム
  • 無料
apps.apple.com

play.google.com

元は昨年末ごろからMOBAゲーム「Dota2」(Steam:Dota 2)のMODとして公開されていたこのオートチェスというゲームですが、現在はオリジナルのMod版の他、

  • MOD開発元のDrodo Studioが開発を行っているスマホ版「Auto Chess:Origin」
  • Dota2の版権を持つValveが開発し、Mod版と同一のキャラが登場する「Dota Underlords」

store.steampowered.com

のどちらを本家とするべきか微妙な2つのスタンドアロンゲームが登場している上、プレイヤー数世界一と言われるMOBA「League of Legends」の開発元が、LoL内に

を実装するなど、今最も盛り上がりを見せており、かつ最も混沌としているゲームジャンルであると言えるでしょう。

この他にも多数の派生ゲームが様々な企業によって開発されており、一体どの企業のどのゲームが「覇権」を握るのか?といった情勢も非常に興味深いところではあるのですが、今回はそういった込み入った問題からは一歩退き、「オートチェスっぽいゲーム」という大きなジャンルについて、

また、各ゲームの入門や攻略といった記事は検索すれば質の高いものがいくらでも出てくるので、そういった内容からも少し離れて「一体なぜこのジャンルはこんなにも魅力的なのか?」ということについて少し考えてみたいと思います。

そもそも、どういうゲームなのか?

既にプレイされている方にとっては説明不要の内容なのですが、バリエーションごとに多少の仕様の際はあれど、このオートチェスというゲームは概ね

  • 1ラウンドが準備フェーズとバトルフェーズに分かれている
  • 準備フェーズの開始時に一定額のリソースが配られる
  • 続いて、数体ランダムにユニットが獲得候補として提示される
  • プレイヤーはリソースを消費してそのユニットから好きな数自分の手持ちに加え、手持ちから戦闘用の編成を構築する
  • 他のプレイヤーが構築した編成と自分の編成がバトルフェーズに戦闘を行い、自分の編成が全滅した場合にはダメージを受ける

という流れを数十回繰り返す形で進行していきます。

体力が尽きるまでこの工程を繰り返しながら自分の編成を強化していき、同じマッチに参加しているプレイヤーの中で最も長く生き残ることを目標とします。

各ユニットは「種族(的なもの)」と「職業(的なもの)」を2つ以上持ち、同じ種族や職業に含まれるユニットが複数編成に含まれていると、各種別ごとに異なる相乗効果を発揮します。

この相乗効果の組み合わせと、各ユニットのレベル(こちらは、同じユニットを一定数集めることで合成して上げることができます)によってその編成の強さや性質が決定します。(もちろん、各ユニットもそれぞれ攻撃力や体力が異なったりと、様々な性質があります)

ターンの最初に提示された候補の中に気に入るものがなければ再抽選のリクエストを行うことができますが、再抽選のためには少しだけリソースを支払う必要があり、このために支払った分は取り戻す方法がない(ユニットを購入するのに使ったリソースは、そのユニットを売却すると手元に戻ってきます)ため、基本的には再抽選を行うとアドバンテージを失うことになります。

しかし無料で並ぶユニットを無造作に取っているだけではすぐに周りの編成に勝てなくなっていくため、毎ラウンド「再抽選して勝ち抜きを狙うのか」「そのまま見送ってリソースを蓄えるのか」などの多様な判断が求められるゲームになっています。

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獲得候補ユニットが表示された画面。構成に組み入れたいユニットを、右上のゴールド数の範囲で自由に選ぶ。

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ゲーム終盤、ある程度の数ユニットが集まった画面。画面右にこの構成で発動している相乗効果を示すアイコンが表示されている。(画面左に本来は参加プレイヤーの体力情報が表示されているが、ユーザー名が表示されるのでトリミングしている)

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戦闘中。一定条件を満たすと発動されるユニットのスキルによる演出で、画面が賑やかになる。

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ラウンドに何度か負け、プレイヤー自身の体力が0になると敗北。

加えてプレイングを深める要素として

  • ラウンドが進めば進むほど(厳密には「プレイヤーのランクが上がるほど」)強力かつ値段の高いユニットが出やすくなる
  • すべてのユニットは全プレイヤーの間で共通の山から抽選される(同じユニットを狙うプレイヤーが多ければ多いほど出現率が下がる)
  • ラウンド終了時に一定量以上のリソースを持っている場合、次のラウンドで「利子」としてより多くのリソースを獲得できる(2ターン何も取らなければ3ターン目にもらえるやつが1増えるくらいのイメージ)

といった仕組みが存在します。 ゲームのイメージとしては、役を作るようなイメージや自分の欲しいものをピックアップするようなプレイ感覚から「引くものがランダムな麻雀」「バトルロワイヤルのドミニオン」といった例えをよく目にします。

なぜこのゲームが魅力的なのか?

非常に個人的な話になってしまい恐縮なのですが、僕がゲームを好きになるかどうかの大きな指針に、「Easy to Play, Hard to Master」というものがあります。

直訳すれば「遊ぶのは簡単だが、極めるのは難しい」という意味の言葉で、一般的にも優れた遊びを形容する表現としてよく用いられていますが、自分の過去の嗜好を振り返れば、この言葉が当てはまるゲームにどっぷりとハマってきているように感じます。

そしてまた、オートチェスというジャンルもこの言葉がぴったりと当てはまるゲームであると自分は考えています。

まずは何をもって「Easy to Play」だと思うのかを以下に挙げていきます。(ただし、「Play」を、「ある程度戦略を立案したり、ゲームの楽しさを実感できる段階」として恣意的に定義している点についてはご容赦ください)

Easy?

  • 精密な動作など、操作スキルが要求されない

オートチェスの原作であるDotaに代表されるMOBAや格闘ゲームあるいは音ゲーといったように、ゲームの中には「適切な操作をより精密に、より早く行う」ことがまず要求されるものもありますが、オートチェスはボードゲームやカードゲームに近い操作感のゲームなので、そうしたスキルは要求されません。

もちろん、そうしたスキルといった基礎の上に駆け引きや技術が必要となるゲームには非常に大きな魅力があり、広く人気を集めているのは間違いないのですが、その「基礎」の積み重ねの部分が必要なく、運動神経や反射神経で最初の差がでないというのは一つ、「プレイを簡単にする」要素と言えるのではないでしょうか。

  • 「最新メタゲーム」や「定石」を追う必要がない、あったとしても覚える量が少ない

加えて、操作スキルの要求されないゲームとして代表的なカードゲームなどに比べて覚えるべき情報が少ないというのも一つの美点であると思います。

もちろんゲームを楽しむためには各種族や職業の構成、登場するキャラクターをある程度覚える必要はありますが、デジタルカードゲームなどのように「数ヶ月に一回新弾が出て100枚単位でカードプールが増える」というようなことは起こりません。覚えるべき内容の形式的には将棋やチェスなどの伝統的ボードゲームに近いものがありますが、これらのゲームで正しく把握する必要のある「定石」を記憶する必要もありません。(コマの出現がランダムなので、覚えても仕方がない)

それぞれの構成やユニットが発揮する効果ごとに相性の善し悪しは存在するので、将棋で例えるならば「金底の歩」「歩頭桂」のような好形を覚える必要は多少ありますが、それでも記憶するべき量、記憶に要求されるシビアさ共に、比較的軽い水準であると言えると思われます。

  • 同時ターン制なので、致命的なミスが発生しづらい

お互いに手番をパスし合うようなゲームでは、ここで判断を間違え、相手に手番を渡したために負けた、というような、「致命的な敗着」が時々発生しますが、オートチェスは全プレイヤーが同時に準備を行い、一度戦闘が始まってしまえば終了まで操作を行うことができないため、そうしたケースが発生しづらい仕組みになっています。

「相手がこの構成なのにこの構成を目指してしまった」というのを後から見て敗着だったと分析することはもちろん可能ですが、交互ターン制のゲームよりも選択と負けへの結びつきがかなり薄くなります。極端な例えで言えば、詰んでいないのに王手を放置して負ける、というケースはありません。

  • 明確に「運」が絡む

上記でも説明したとおり、再抽選を行えば行うほど不利になるゲームなので、再抽選を一度も行わずに思い通りの構成を作れてしまう運があれば絶対に負けません。

実際8人中1位になるのは間違いなく幸運に恵まれたプレイヤーであり、プレイスキルに大きく差があっても1試合で見れば順位が逆転していることも多々あります。

ゲーム内の強さを示す指標が「いかに上位数人に入るか」を重視したものになっているなど、過度に運が左右してしまわないようにする工夫は多くありますが、それでも運要素の比較的強いゲームジャンルであることは間違いないでしょう。

つまり、運によって大勝ちすることもあり、負けた時に運のせいにすることができるということです。

主に以上の要素がこのゲームの「Easy to Play」を構成していると考えています。気楽に始めやすく、結果に対するプレッシャーを感じにくい構造のゲームであることが伝わればと思います。いわゆる「ゲームの上手い」人であれば、操作スキルという基礎が要求されたり、一手の判断が勝敗を大きく分けることにあまり抵抗を感じられないのかもしれませんが、自分のような貧弱なプレイヤーにはそこの気楽さは重要なポイントで、「下手なままでは対戦相手に迷惑をかけるのではないか」と恐れをなし、ランクマッチに参戦する前にやめてしまったゲームも過去にいくつかあります。オートチェスは、そうした心配のないゲームであると言えると思います。

逆に「Hard to Master」を担うのがどのような要素であるかも挙げていくと、

Hard?

一定以上のレベルを目指すなら、駆け引き要素の強い「配置」を研究する必要がある

このゲームには各ユニットごとに攻撃力や体力、それから大ダメージを与えたり相手の動きを止めたりする「スキル」といった要素が存在し、その「スキル」を発動しにくくできる効果や体力の乏しい相手に相性のいいユニットなどの個性があるため、全体的に見て同等の強さを持つ構成同士がかち合った場合、どのユニットが多く攻撃を受け早く倒れたり長い時間機能停止するかといった部分で勝敗が左右されます。

そうした要素は、準備期間中に各プレイヤーが自由に変更できる各ユニットの「配置」によって概ね決定します。

この「配置」には、防御性能の高いユニットが相手の攻撃を多く受けるようにするなどの基本的な部分から、次に当たる相手を予測して相手の特定ユニットを機能停止させる、自分の強いスキルを持つユニットが最大限に効果を発揮できるようにするなどのより高度な内容までが含まれます。

強い相手同士が戦う高ランクの試合においては配置によって勝敗が決ることも少なくないらしく、またお互いに自由に変更が可能なので、相手の狙いを見越して裏をかくなどの駆け引き要素も含まれ、非常に奥が深く重要度も高い要素です。

ただし、この配置の良し悪しが勝敗を左右するのはあくまで同程度の強さを持った構成同士がかち合った場合であり、明らかに完成度に差がある相手を配置の力だけで逆転することは基本的にできません。 あくまで「ある程度以上」を目指すためなら必要になる要素、といった位置づけです。(そのため、Easy to Playを損ねることにはなっていない、と自分は考えています。)

安定して勝つためには、行動を変えて運要素を減らす必要がある

また、いかに強い構成を作るか、といった部分に関しても、自分の選択に気を配ることで運要素を極力排除していくことが可能です。

基本的にこのゲームにおいて「強い構成を作る」事を考える場合、重要になるのは、各行動(特定ユニットを購入する、再抽選を行うなど)の自分にとっての価値を適切に判断することです。 例えば、

  • このユニットの獲得は、今の自分にとってそのユニットの対価であるリソースより価値があるのか?
  • この局面で再抽選を何度か行うことで得られるリターン(欲しいユニットの獲得確率上昇)の価値はどれだけのものなのか?
  • ここで再抽選やユニットの獲得を我慢して得る利子は、再抽選を行うことで得られたであろう一勝とそれによって守れたであろう体力よりも価値があるのか?

といった判断をどれだけシビアに、合理的に行うことができるか、といった部分が主に判断の局面になります。(あくまで一例です)

この「合理的」という部分がミソで、私達人間は、いろんな物の価値を判断する際、無意識に不合理な行動を取りがちであるということが広く知られています。

人間が生存のため、あるいは社会生活の維持のために発展させてきた物の考え方や視点などが、時に冷静に見れば損をするような選択に自身を導くことになる、ということです。 いくつか具体的な例をあげます。

  • 自分が持っているものの価値を過大評価する

これをわかりやすい形で示した実験があるのですが、被験者を2つのグループに分け、一方にはマグカップを手渡し、もう一方にはただ見せるだけで双方にそのマグカップの適正価格がどの程度かを聞くという単純な内容です。

たったこれだけのことで、マグカップを手渡された側の被験者はもう一方に対して平均して2倍近くの価格をつけた、という驚くべき結果が出ています。

そして恐らく、オートチェスのプレイの場面でも、これと同様の効果により判断を誤るというケースが発生していると自分が考えています。

プレイヤーの方であれば、「自分が集めていて競合率の高い☆1のナイト3体を重視して、ショップに並んだウォリアー3体を見送ってしまう」と言えば思い当たるのではないでしょうか。

つまり、「自分の手持ちのコマ数体ととショップに偶然並んだ同程度の強さコマ数体を比較した時、無意識に自分の持っているものを高く評価してしまう」という現象です。

こうした効果を一般的に「保有効果」といい、単純に「手渡された」だけのものであってもこれにより判断のミスが生じてしまいがちなのですが、仮にオートチェスの手持ちのコマを「自分が頭を絞って考え、労力を費やして集めた」ものであるとする(そして恐らくこっちの定義を受け入れるプレイヤーの方が多いのではないでしょうか)ならば、更に強力な「イケア効果(自前効果)」と呼ばれる効果が働くと考えられます。

これは一方のグループには折り紙で鶴を折ってもらってから、もう一方のグループには単に折られた鶴を見せただけで、それぞれその折り鶴に値段をつけてもらうという実験内容で示されたもので、見せられただけのグループは平均5セント、自分で折ったグループは平均23セントの値段をつけたという結果が残されています。

本来は他プレイヤーとの競合率などを考慮してその場その場で最善の選択に舵を切っていくことが求められるのですが、自分自身が前のラウンドでした選択に引っ張られ、思うように駒が集まらず負けていくという形は頻発するパターンの一つではないでしょうか。

  • 選択の自由を残そうとした結果、集中戦略を取るタイミングが遅れる

オートチェスの種族や職業における相乗効果には、属するユニットの数によっていくつかの段階があり、「1段階目では中盤戦以降物足りない性能になるが、2段階目を発動できれば最後まで勝てる可能性が高い」という性質のものがいくつか存在します。(※プレイヤーの方へ 6ゴブリンみたいなものを想定しています)

こういう性質の効果は概ねそれを最重要視して目指さなければほとんど狙えず、そうしたとしても達成できる確率はけして高くない、という形に調整されているため、完成が望み薄であったり、もしくはもっと確度の高い戦術があるといった場合には、一段階目もさっさと切ってしまって別の形を目指すのが間違いなく最善です。

しかし、実際のプレイでは、その構成の完成を追い続けてしまった結果、リソースや体力を失ってしまいジリ貧になるという負け方が往々にして起こります。 このような負け方は、人間の「選択の自由」を保護しようとする性質で説明ができると思われます。こちらも過去に著名な実験が行われており、

被験者に以下のルールでゲームを行ってもらう

  • 赤、緑、青の3種類の扉がPC上に表示されており、クリックするごとに一定の範囲でランダムな賞金が獲得できる
  • 扉の色によってもらえる賞金の平均値が異なる

その後、

  • 合計12回クリックを行う間に一度もクリックされなかった扉は消滅してしまう

というルールを加えて同様のゲームを行う

といった内容です。

実験の結果として、1つ目の実験では被験者全体で全種類の扉を数回クリックしてから残りのクリック数をすべて効率のよさそうな扉に費やす、という傾向が確認できたのに対し、2つ目の実験では、ある程度効率の良い扉が絞られた以降も、「その他の非効率と思われる扉が消滅するのを恐れ、消えてしまう前にクリックを行う」という行動が確認されています。

また、獲得報酬額は2回目のほうが平均して15%ほど少ないものになったということです。

これはつまり、「期待値が低そうだ」と判断した選択肢であってもなおそれを選ぶ自由を残そうとしてしまいがちで、その結果として最終的に損をすることになることもあるという人間の性質を示しています。

上述した典型的な負け方もこの性向で説明がつくのではないでしょうか。

ちなみにこの実験にはもう一つ追加実験があり、

  • 12回で消えた扉も、1度クリックすれば復活する

といった条件をさらに追加して消滅のプレッシャーを軽減した条件のものも実施されているのですが、この3番目の条件の有無は結果にほとんど影響を与えなかった、とされています。

構成の完成が見えてから再度集め直すという選択肢があったとしても一度切ることを躊躇してしまうのは、オートチェスに当てはめた場合でも同じことがいえます。

  • すぐに得られる報酬の価値を時間が立ってから得られる報酬よりも大きく評価する

これはつまり、「人は1ヶ月後にもらえる1万2千円よりも、今すぐもらえる1万円を選んでしまう」ということです。

これは「双曲割引」と呼ばれ、様々な実験から現在では実際に時間と価値の対応関係がどうなっているかを示すモデルもあるそうなのですが、単純に実感としてだけでも今回挙げたものの中で一番納得できる内容なのではないでしょうか。

オートチェスにおいては、「利子の過大評価」がこのケースに当てはまると思われます。

上記したとおり、オートチェスにはラウンド終了時点での所持リソース数に比例して、次のラウンド開始時に追加のリソースを得られる「利子」というシステムがあります。

だいたい10単位のリソースあたり1,最大値5、といったバランス感のシステム(ちなみにユニット一体の価格が1-5、再抽選費用は2)であり、現時点でいらないユニットを売却しておくなどしてこの利子を可能な範囲で最大化するのは重要なプレイスキルではあるのですが、逆にこの利子を追い求めすぎて自分の体力を過度に減らしてしまうというのが典型的な負け方として存在します。

この利子を維持する事による価値は、維持したまま残り何ラウンド生き残ることができるか(このラウンドで負けて体力が0になりそうなのであれば当然利子を維持している場合ではない)によって大きく変動しますが、仮に十分に長く生き残るケースを考えても、リソース0単位から利子5を手に入れることができるようになるまでには8ターンしか要しません。(5→10→16→22→29→36→44→52)

つまり、50単位一気に費やしてしまったとしても、8ラウンド長く生き残れば若干得するということになります。(上記52のあまり2のぶんだけ得)

実際のプレイの上では50単位一気に使うということはあまりなく、使った額が小さいほど元の額に戻るまでにかかる時間が短くなるため、合理的に判断すればリソースを支払うべきである場面は相当に多いと考えられます。

冷静に考えればそうなのになぜよく利子を重視しすぎてしまうのか?という理由を考えると、この双曲割引に行き着くのではないかと思われます。

利子は次のラウンドにすぐもらえる目先の利得であるため、数ラウンドあるいは十数ラウンド後に手に入れられる、「利子を維持していれば生き残れなかったラウンドで得られるリソース」も遥かに魅力的に映る、ということです。

また、関連する傾向として、我々は損失に対してリスク選好的(必ず8千円失うよりも5割で2万円失うほうが選ばれがち)であり、利得に対してリスク回避的(先例を「手に入れる」に置き換えると8千円が選ばれる)であるという研究結果もあります。

確実に得られる利得である利子のほうが、不確定な数ラウンドの生存よりも選ばれやすいということも一つ要因としてあげられるのかもしれません。

以上のような局面で、我々は生活の中で、またオートチェスのプレイ中に、「価値を見誤り」やすいのです。

ちなみに上記で説明したいくつかの実験は、全て「行動経済学」という、「人間は様々な場面で合理的に判断ができなくなる(ので、合理的経済人を前提とする伝統的な経済学の想定は見直すべきである)」ということを研究した学問の中で挙げられた成果です。僕はこの分野を専攻しているわけでもなんでもないのですが、個人的にこの学問のファンで何冊か書籍を読んでいるので、例として紹介させていただきました。

こうした価値を見誤りやすい場面を考える上で重要な前提が、「無意識のうちに誤りがちで、なおかつ見直すまで誤っていたことに気づかない」ということです。

言い換えれば「意識しない限り、自分にとって自分は最善の行動をとっている」ということです。

つまり今挙げたような価値判断の誤りにより負けていたとしても、何らかのきっかけで気づかない限りは負けた要因が見えず改善できないということになります。

逆に考えると、自分でもわかるミスを潰し終わった後は、自分の行動を毎回疑いながらプレイしないと上達できないということで、この性質こそがオートチェスというジャンルを「極めるのが難しい」ものにしていると僕は考えています。

加えて言えば、自分自身の性質との戦いなので、どこまで行っても「これで極めた」という終わりに辿り着かないゲームであるとも言えるのではないでしょうか。

練習することと覚えることは少なくて運の要素が多く、それでいて考えることは多く、駆け引きもあって運の要素を努力で減らすことができる。

そうした構造の存在が、僕がこのゲームを「Easy to Play, Hard to Master」であると考える理由であり、また、バイト先のブログの記事に1万文字超えのラブレターを綴ってしまうほどこのゲームが大好きな理由でもあります。

かなり感情的な長文をここまで書いてきたのですが、最後に僕の言いたいことの要点をまとめておくと、

オートチェス楽しいからみんなもやろうよ!」

です。

この一言が一人でも多くの方に伝わっていればとても嬉しいです。